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「……えっと、土方さん」
奏は控えめに声をかける。
土方は奏を見るが、何も言わない。
「昨日は迷惑をかけて、すみませんでした!」
勢いよく頭を下げる。
「いや、助けられたのは俺の方だ」
そう言って、再び黙って奏を見つめる。
ジッと見つめられて、どうしたらいいのか分からない。
「土方さん?」
奏は先程の近藤の言葉を思い出す。
まだ出会って数日だったが、それでも土方の様子がおかしい事は気がついた。
「昨日の事は覚えてないのか?」
「はい?」
首を傾げる奏に土方は何でもないと言って奏から離れた。
「総司」
土方の様子が気になった奏は、土方の追いかけようとしたが近藤に呼ばれて振り返る。
「これを……」
近藤から手渡されたのは、昨日自分が鞘から抜いた菊一文字だった。
妙に馴染むその刀を、奏は恐怖と懐かしさを感じながら見つめるのだった。
「どしたの、新八?」
奏を見つめる永倉を不思議に思って、原田が声をかける。
「……ヤバイ」
呟く永倉と、黙ったまま先を促す原田。
「あの子、本当に総司か?めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか」
「そうか?俺はもう少し大人な……って、まさか……」
永倉の目は、恋をしている目だった。
しかし奏は永倉には見向きもせず土方と話している。
永倉と土方と奏を順番に見つめ、ややこしい事になりそうだと原田は小さく息を吐いた。
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