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- K
屋上から戻ってきた田口と俺は、田口の病室へと向かった。
中に入るとバッグが置いてあった。
それを見ていると、田口に肩を叩かれた。
『決まったんだ、退院の日。』
『そっか。』
俺は嬉しくて微笑んだ。
『しばらくは、家で大人しくしてるつもりなんだ。』
『聖は知ってるの??』
『知ってる。』
田口はそう言ってベッドに座った。
『ねぇ、かめ。』
そう言われて俺は田口を見た。
『なに??』
『聞かせてよ。』
俺は何を言えばいいのか予想したが、首を傾げた。
『何が聞きたいんだよ。』
『覚悟を決めた理由。』
そう言われて俺は黙った。
田口はいつにも増して、真剣な目をしていた。
俺はいつも田口のこの目を見ると、何だか弱くなる。
『....田口のその目、俺が苦手なの知ってるくせに。』
俺はそう言って椅子に座った。
『本当は、こうなるはずじゃなかったんだ。覚悟を決めたかったけど、そんな気分には、いつまでもなれないと思った。』
『うん。』
『俺の世界は、仁の為に廻ってるんだ。だから、仁を守るのは俺にしか出来ないって。でも。』
『でも??』
俺は立ち上がって窓の側に行った。
『...俺は、仁から逃げた。嫌だった。仁を守れない俺が。』
『...。』
『弱い自分も、大嫌いだった。母さんの涙を見て、父さんの死を目の当たりにして。俺は思った。死ぬのって、こんな感じなんだって。』
『...。』
『なんか生きてるって、呆気ないのかなって。だから、全てを捨てられた。』
『そっか。』
『でも、仁が精神科に通ってるって耳にして、すぐにでも会いに行きたかった。その時、タイミングよく母さんがこの街に帰ってくることになった。』
『だから、再会したんだ。』
『そう。』
俺はそう言って田口を見た。
『俺はいつまでも、仁を好きなままだった。仁と一緒に居たら、生きていたいって思うようになる。』
『それで、いいんじゃない??』
『そうかな??』
『かめ。』
田口はそう言って俺を椅子に座らせた。
そして、俺の手を握った。
『俺はずっとかめに生きててほしいって思ってた。』
『田口。』
『だから、安心した。』
そう言ってると看護師が入ってきた。
「田口くん、昼食の時間ですよ。」
『あ、はい。』
『じゃあ、俺は戻る。』
そう言って俺はドアへと歩いた。
そして、立ち止まり田口を見た。
『俺、田口の言葉忘れたことないから。』
そう言ってから、俺は病室を出た。
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