平和な街に事件は起こらない

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「なあ、なんで対立しなきゃいけないんだよ」 崩れた建物の残骸を背に、一人の若者が聞く。 まだ砂ぼこりが立ち上げていることから、崩れてから時間は経ってはいない。 「思想の違いは衝突を生む。解決するには傷つけ合うしかないんだよ」 向かい合うように立つ、もう一人の若者が言い返した。 そして、一息置いてこう続ける。 「本気で来なよ。俺は、本気で戦ってみたかったんだ」 「ずっと本気でやってるってば」 そう言って彼は氷の盾を作り出す。青白いその盾は太陽の光を受けて輝いていた。 「今のお前は本気じゃない。わかってるだろ? 逃げるための作戦を、何度も潰されてるのを」 細いため息を吐くもう一人の若者は紫の剣を形成させる。肘から生えたように見える刃は長く、鋭い。 「これが俺のやり方だから、さ」 平和だったこの街は、いつの間にか血の臭いが染み付いていた。
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