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*死の恐怖*
僕は一瞬、宙に吊り上げられている事も、息苦しいのも忘れて、呆然とした。
日常会話で口にする事は無いだろう単語が、少女の口から飛び出した気がする。
◇ ◇ ◇
「つまらないわね」
冷めた瞳で下から僕を睨み上げ、少女はポツリと呟いた。
「死ぬ事が怖くないの? 私が手を放せば、あなたは死ぬのよ?」
不服そうに眉をしかめ、睨み上げてくる黒い双眸。
答えようにも、段々と苦しくなる呼吸に言葉は出てこない。落ちて死ぬよりも先に、窒息して死んでしまいそうだ。
そんな僕に何を思ったのか、彼女は突然ニヤリと笑った。
「いいわ、任せなさい。私はヒーローだもの――」
ヒーローには似つかわしくない笑みを浮かべたまま、彼女は楽しそうに先を続けた。
「私が死の恐怖を教えてあげようじゃない」
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