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空気が暑かった。地面が熱かった。今年の夏で恐らく一番アツい日だった。
そのアツさを鮮明に覚えている。そんな日だったからこそ、私は学校をサボったのだ。
親には学校に行く、と言い家を出た。しかし、向かった先は人気のない小さな無人の神社。
そこはこれよりもずっと幼い時に遊んでいた、秘密の場所だった。
そこで私は只管にボーっと佇んでいた。
別段することもなかったし、なにより暑くて動く気にもならなかったからだ。
そんな時だ。
軽快な足取りで私の前に彼女が現れたのは──
「あなた、暇ならあたしに付き合ってくれない?」
立派な着物を着た、育ちのよさそうな女の子だった。
年齢は私と同じか、すこし下というほどか。どちらにしても、こんな朽ちた神社には不釣り合いな風貌だ。
そんな彼女がいきなり話しかけてきたのだから、あまり女子と関わりを持ってこなかった私は当然狼狽した。
しどろもどろしている私を彼女はふふっ、と笑う。
「学校サボってる割には、不良って感じじゃないわね。あなた」
そして彼女はまた笑う。
その笑顔が年相応のそれより、とても大人びていて綺麗だった。
見惚れていた私の手を彼女は強引に引っ張る。
私はまだ何も答えていないのに、だ。どうやら、見た目に反して短気のようだ。
それに反抗することもなくついていく私もどうかと思ったが・・・。
彼女に導かれるまま、私は神社を出て、商店街にとび出した。
なぜ、こんなとこに来たのだろうと首を捻っていると彼女は困ったように呟く。
「・・・・・・ま、迷った」
芸人よろしく、盛大にスッ転んだ。
今思えばよくやったと思う。商店街のど真ん中で、綺麗な着物の女の子の隣で。
「なにしてんのよ、あなた。・・・芸人なの?」
「違うよ!」
今まで彼女に圧されっぱなしだったが、やっと言葉が出た。
第一声がツッコミとは思いもしなかったけど。
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