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「・・・・・・あなた、喋れたのね。ビックリ」
喋れないと思われていたようだ。
いや、何も言わなかったので仕方ない。
「迷ったってことは、どこか目的地があったんでしょ?教えてよ、知ってれば案内するよ」
なかなか話が進まなかったので、仕方なく私は聞いた。
彼女は綺麗で可愛いけど、性格は苦手なタイプだった。
強引で力強い、そんな人は苦手だ。自分の弱さが嫌でもわかってしまうから・・・。
だから、私はこの時、早く彼女から解放されたかった。
「う~~~ん、それがあたしにもわからないのよ。昔、一回行っただけだから・・・」
「なら、どういう所?なにがあったの?」
「よく覚えてないけど、夕日が綺麗な場所だった。かな?」
夕日なんてどこで見ても大概綺麗だ。と思ったけど言うとなにかされそうなのでそっと心の中に仕舞っておいた。
「ま、そこら辺歩いていれば思い出すでしょ!・・・というわけで、レッツゴー!」
「うわ、いきなり引っ張んないでよ!」
「それくらいで騒がない、あなた男でしょ?」
「実は女なんだ」
「嘘っ!?」
「冗──」
勿論冗談で、すぐ訂正しようとしたけど、それよりも早く彼女は私の股間を掴みかかった。
「・・・ん、なんだやっぱり男じゃない」
「な、な、な・・・」
言葉が出なかったのは言うまでもない。
どうやら彼女には冗談は通じないらしい。益々苦手なタイプだ。
それから私が立ち直るのに数分の時間が掛った。
・
・
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暫く、私達は歩き続けた。
商店街、林道、脇道、獣道。とにかく私が知っていた場所は所構わず踏破した。
けれど、彼女が探す“夕日が綺麗な場所”は見つからなかった。私は途方に暮れていた。
学校をサボってまで、一体なにをしているのだろう。そんなことをぐるぐると思いながら、
案内しているのは私だというのに先行する彼女の後をひたすらに追った。すこし前から会話はない。
それ以前は煩わしいほど話掛けてきた彼女だったけど、いつしかその口は閉ざされていた。どうも調子が狂う。
彼女と出会ってからわずか数時間。それでもすこしは理解してきた。彼女のこと、性格、口調、その他のものも。
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