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彼女は多弁だ。よく喋る。本当にさっきまでは絶えず喋り続けていたんだ。なのに、それがぱったり止んだ。そりゃ、疲れたのだと思うけど。
ただ、私としては調子を狂わされる結果となった。だから、意を決して話しかけてみようと思った。おしゃべりは苦手だけど、それでも無言の気まずさも苦手だ。
「ねぇ、なんでその場所を探してるの?」
できるだけ自然に、噛まないようにゆっくりと丁寧に言った。
歩き辛そうな格好にも関わらず悠然と進む彼女は動きを止め、振り返る。
すこしだけ、汗を掻いていた。
「別に・・・、ただもう一度見てみたいって思ったの。・・・・・・昔、お父さんと一緒に行ったところなんだけど。小さい時のことだったから、忘れちゃって」
大した理由じゃない、と彼女は続けて言った。
その顔は別に、本当にどうでもいいような表情をしていたけど、ただ私はそれだけの理由じゃないことを理解した。
なんとなくだけど、彼女は嘘が下手そうだから。彼女が言うのは本当のことだけ。だから、秘密にしたい事は言わない。それだけだ。
時間は昼間。お天道様が真上にあるということは、誤差を省いて二時というところか・・・。
私も彼女も、汗を掻いていた。今日は暑い。シャツが汗ではっつき、気持ちが悪い。和服を着ている彼女はもっと暑いことだろう。
それでも彼女は優雅に休んでいた。私のようにうねることもなく、正座して木陰で汗が引くのを待っていた。こうしていればお嬢様なのだが、と愚痴が零れる。
そんな彼女に私は飲み物を奢ってあげた。丁度良く自販機もあったのは行幸だった。
「はい・・・。暑いでしょ、飲みなよ」
「え・・・、ん、うん。ありがと」
ぎこちない返事で、ぎこちなく受け取る彼女。すこしおかしかったけど、そんな彼女が可愛く思えた。
ドキッとする。いつの間にか、私は彼女に惚れていたのかもしれない。あまり女子と接点がなかったから、こういう免疫がないのだ。
とはいえ、自制は出来る。こんな男に惚れられても、彼女は迷惑だろう。まぁ、一時の気の迷いさ。私はそう思おうとした。
「ね、ねぇ・・・、これどうやって開けるの?」
すこし思考の海に飛び込んでいた私は彼女の言葉で目が覚める。
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