私と彼女

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彼女はカンを相手に悪戦苦闘していた。スチール缶を手刀で叩き割ろうともしていた。 慌てて取り上げて、ブルタブをあけて渡した。「おおぅ」と感嘆の声を上げるとお茶を啜り始めた。 驚くのを忘れて、呆れる。見た目どおりの箱入り娘を言う奴だった。・・・でも、困った事に、それが、そんな彼女が可愛かった。 惚れ易いにもほどがある。自身を恥じる。あぁ、私はこんなに軟派だったのかと責めた。 お茶を飲み終えた彼女はサッと立ち上がると、私の顔に顔を近づけて言う。   「──あたしと、恋、してみない?」 突然だった。理解できなくて、理解した時、驚いた。 困惑。困惑していた。というより判らなかった。その言葉にじゃない。意味にじゃない。 なぜ、いきなりそう発言する彼女の意図が判らなかった。いや、彼女だって年頃だし、色恋に興味があるのはわかる。 それは理解しよう。だが、さて、まだ会って間もない相手に言うことか。そこまで彼女は飢えているというのか。 ない。結論を出す。そんなことはない。ああ、だというのに私は赤面していた。自分でもわかった。頬が熱い。 夏の暑さを越える熱さだ。彼女の目を見る。本気の目。冗談などではない。というより嘘は吐かないだろうと思ってる。 なら、彼女は本当に、言ってる?   「あ、あ、あ、えっ、じ、じゃぁ、よろしくお願いします」 気付けば私は頷いていた。 その途端、彼女の顔が華やいだ。笑顔。眩しい笑顔。夏の日差しに負けない笑顔だった。 ◇◇◇ それからも私達は探し続けた。 「恋をしよう」と言われ、頷いたけれど、二人揃ってよくわかっていなかったからだ。 とりあえず歩いて、探して、疲れたら休んで。そんな感じで、時間は過ぎていった。もう日は傾いてきている。 私達は高台の丘。展望台がある場所で休んでいた。とはいえ、ここも彼女曰く「探してる場所じゃない」らしい。 けれど、疲労も蓄積していたし、日が暮れる。これ以上探索するのは危険だった。だから私はとりあえず夕日を眺めたら、今日は解散しようと提案するつもりだった。 とはいえ、夕日を眺めて、すこしでも恋っぽいことをしたかったという僅かな欲望もあったのも事実なのだけど。
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