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やがて、日が地平線へと沈んでいく。
綺麗だった。下に見える町を赤く染めて、夕日は私達すら赤く染め上げる。
「・・・・・・・・・・・ぉぉ」
そんな場景を前に、私は綺麗とも言えず、ただ気道から出てきた空気を振るわせることしかできなかった。
横にいる彼女はなにか納得したような、そんな穏やかな表情をしていた。そして、静かに夕日を見つめ続けていた。
日は落ちた。いきなり空は暗くなる。
放心していた私は、我を取り戻し、提案をしようと彼女を見る。
既に彼女も私を見ていた。ふいに目が合う。そらしたいと思ったけど、真っ直ぐ射抜く彼女の視線がそれをさせてくれない。
「ごめん。わかった、やっとわかったわ」
彼女は言った。的を得ない謝罪と会得したという言葉。
私は首を傾げる。言葉はなかった。
「別に、本当に、どこでもよかっただ。ただ、好きな人と一緒に夕日を眺められれば・・・」
頬に涙が伝う。泣いていた。
私は困惑する。どうしていいかわからない。
「ふふっ・・・、ごめん。本当に、ありがとう。あなたは、あたしの初恋だったわ」
今度は微笑む。もう満足したような表情で。
タン、と彼女は一歩踏み出して、私に・・・・・・キスをした。
柔らかい唇が、唇に触れる。体が固まったような錯覚を覚えた。
それも一瞬で解けると、彼女は身を引いた。
「えへへ・・・・・・、わりと照れるね。──それじゃ、もう、さよならしなきゃ」
「・・・・・・えっ?」
やっと声が出た。
彼女はクルッと後ろを向くと走った。いきなりすぎて、私にはその後を追うことができなかった。
そして、展望台の出口のところで立ち止まると、またこちらに振り返った。
「じゃぁねっ!ありがとー!本当に、今日は、楽しかったよーーー!!」
さっきの涙が嘘みたいに彼女は手を振って、叫ぶ。
私はそれにつられて、手をふりかえした。よくわかってなかったけど、それでも振った。
やがて、彼女は駆け足で私の視界から消えていった。そこでやっと私は彼女を追い始めた。
まだ時間的には危なくないが、もう真っ暗になった道を一人にするのは危険だと思ったからだ。
けれど、散々探し回っても彼女は見つからなかった。でも、これだけ探していないのなら無事に町まで辿り着けたと考えていいだろう。
そう思い。私は安心して帰路に着いた。
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