私と彼女

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・ ・ ・ 次の日、私はまた学校をサボった。 彼女に会いたかったからだ。昨日のように、行き着けの神社でボーっとしていた。 だが、いつまで経っても彼女はこなかった。当然だ。約束などしていない。けど、探しにいこうにも私は彼女のことを何も知らなかった。 住所も、通っている学校も、名前すら聞いていなかった。プルタブの空け方を知らないのも、唇の感触だって知っているのに、私はなにもわからなかった。 それでも、いつか。いつかは、と。定期的に学校をサボって、私は神社に通い続けた。けれど、彼女は現れない。 だが、待ち続けた。季節が変わって、歳が変わって、生活が変わって、生き方も変わって、けど、これだけはやめなかった。 気付けば、私は大人になっていた。 仕事も始めた。 忙しい。忙しすぎる時間の中、私は神社に通った。 その頃には、もう諦めてはいた。「初恋は実らないものだ」と友人に言われた。それには納得した。 ただ、「お前はいいとこのお嬢さんに遊ばれたんだよ」と言われた時は憤慨した。それだけは絶対にない。 確信も、確証もないけれど。けれど、彼女が嘘を吐くなんて思えなかった。考えられなかった。それだけは信じ続けた。 また月日が過ぎても、まだ通い続けていた。 その頃、やっと私は彼女の情報を掴んだ。彼女の名前は『有沢 優華』というらしい。 大企業有沢重工の息女だった。彼女は本当のお嬢様だった。それはいい。・・・彼女は既に結婚していた。 それも十六の時に、だ。有沢重工の社長だった彼女の父は、彼女が幼い時に亡くなっていた。 彼が亡くなった後、有沢重工の経営は傾き始めていたらしい。その為、資金融資を条件にある企業の子息を婿へ招いたという話だった。 有沢家には彼女一人しか、子供がいなかった。必然的に、彼女へと白羽の矢が発たされ、結婚した。政略結婚、という奴だった。 もしも、あの時の彼女が十六だったと、そうだと、考えるなら、あれは。私との出会いは、唯一の我が儘だったのかもしれない。 父が築いた会社を守る為、その身を捧げた彼女の。・・・ただ唯一の抵抗だった。そう私は思った。
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