3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、髪の毛はねてない?」
「へーき」
「化粧は?」
「ばっちり」
「洋服変だったりしない?」
「そんな今さら」
そわそわと落ち着きのなくなった君から、質問ラッシュ。
くるくるに巻かれた髪も、好感度の高いナチュラルメイクも、乙女チックなワンピースも、問題はどこにもなかった。
それでも、君は手鏡を何度も見ながら不安げな顔。
君の中のアイツの存在の大きさを目の当たりにして、言いようのない寂しさを覚えた。
まるで、あの時のように。
自分はあれから全く成長出来ていないようだ。
君はどんどんと先に行っているというのにいつまでもグーばかりで、開いた距離では引き止めようと伸ばした手も届かない。
だから、せめて声だけでも、と。
少しでも自分へ意識を戻してほしくて――そんな子供のようなわがままから言っていた。
「大丈夫。可愛いよ」
少し熱っぽくなってしまったのは、間違いなく本心からの言葉だったから。
君は数回瞬いて、それからゆっくりと、破顔した。
「びぃっくりしたぁ! いきなり真面目に言うから」
「落ち着いた?」
「余計にドキドキしたかも」
君の口調は冗談を言う時のそれ。
けれど、その一言に自分の中の余裕は一瞬で霧散した。
――気づいて。気づかないで。
そんな綱渡りのような不安定な気持ちがグラグラと揺れる。
頭の片隅ではアイツの会釈がフラッシュバックし、もう片隅ではぐりこを念仏のように唱えていた。
ありえるはずのない静寂が耳に痛い。
黙り込んだ自分を、君はどう思うだろうか。
目の前の君は、全ての動きを停止させ、
「ちょっと-、そんな引かなくてもいいじゃん」
傷ついた風を装った。その声に、呼び戻された周囲の音。
最初のコメントを投稿しよう!