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「ハッピーバレンタイ-ン!」
おやつ時のカフェ。
君は茶目っ気たっぷりにそう言って、ピンク色の小包をこちらへ差し出した。
注文を終え、メニューを閉じた直後のことだった。
窓の外ではランドセルを背負った子供たちがジャンケンをしながら進んだり見送ったりを繰り返していた。
「マジでか、さんきゅ」
半ば予想していたこととはいえ、嬉しいことに変わりはない。
受け取ろうと腕を伸ばして、触れ合った手に、ドキリとした。
細くなめらかで、華奢。
自分のそれとは大違い。
右の薬指にはめられた指輪が邪魔だな、と思う。似合っているから余計に。
いやに存在を主張する指輪から逸らすように視線を上へと向ければ、ニコニコと君の可愛らしい笑顔。
――あ。
と。思う間があったかさえも分からない、瞬く間に湧き上がる優越感。
君はアイツのものだから、なおさら。だって、アイツはこの笑顔を知らない。
今、この瞬間、君の笑顔は自分にだけ向けられている。
なんて、気持ちがいいのだろう。
早速開けてみると、中には茶色と緑色の円い――
「今年はね-、マカロン作ってみたの」
マカロン。
ふわふわとした感じや、少し歪なところまで、君らしさが漂っているように思う。
一緒に入っていたメッセージカードに並ぶ可愛らしい文字も、自分にだけ向けられた君の言葉。
昔からの癖のある文字はどこまでも暖かく。
「さっすが。おいしそ」
「ありがと。あんまり形は良くないんだけどね」
――幸せだった。
窓際の席。
君と、二人きり。
特別な関係ではないけれど。このまま時が止まってしまえばいいと思うほどに。
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