3人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたらあんなになるんだろうって、お母さんと一緒に大笑いしちゃった」
「うん」
視界の隅でぼんやりと、赤いランドセルが三歩分動いた。
今度は、なんとなく安心する。
つかの間。
「もう、シロちゃん、聞いてなかったでしょ?」
「うん…………え?」
上の空ながらも、何かおかしい気がして慌てて意識を戻す。
すると上目遣いに首を傾げた状態の君が、まっすぐこちらを見ていた。
――息が、詰まる。
「あ、ごめ……いや、聞いてた」
聞きたくない、とは思ったけれど。
心臓はバクバクと早鐘を打っていた。
ばれて、いないだろうか。
君は鋭いから心配になる。
どうにか探ろうと口を開きかけた、そんな時。
テーブルに影が差し、女性店員の明るい声が響いた。
「お待たせしました、気まぐれケーキセットでございます」
「わぁ! オシャレ!」
無意識に『助かった』と思っていた。あのまま何かを言っていたら、今までの努力が全て泡になっていたような気がして。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って去っていく店員の姿も消えない内に、心を落ち着けようとコーヒーを含むと、口いっぱいに苦味が広がった。
「ねぇ、これすごくおいしいよ!」
幸い、君は運ばれてきたケーキに夢中のようで、一口頬張るごとに「おいしい」と綻ぶ顔に自分の頬も緩みっぱなしだった。
だから、油断していた。
「疲れてる時は甘いものだよね」
「やっぱり、疲れてた?」
「あ……」
気づいた時には既に遅し。
最初のコメントを投稿しよう!