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それはこの気持ちに気づいていないように見えた。
そうしてから、ようやく言葉が出てきた。なんて臆病なのだろう。
「心配しすぎ。ちょっとボーッとしてたのは、外の子たちが気になってただけだって」
「外?」
「ほら、小学生たち。ジャンケンしながら帰ってる」
「ああ! あれか! なつかしいね-」
ふわりと、君に笑顔が戻ってきて、ホッとする。
今後、『疲れた』は禁句にしようと心に決めた。
「最近じゃやらないし、見るのも久々かもしんない」
「シロちゃんとー、私と-、あと家が近い子みんなでやったよね!」
「通学班で並んで帰らなきゃいけないのに、大はしゃぎして先生に怒られた!」
些細な、けれど共通の思い出話で盛り上がる。
こんな時はグルグルとしている感情も少し治まる。
あんまりに単純で嗤ってしまいそうだ。
「シロちゃんは私が負けてるとグーばっかり出してた」
「そうだったっけ?」
「そうだよー。今思えば私が追いつくまで待っててくれてたんでしょ? グーなら勝ってもあんまり進まないし私がパーで勝てば六歩進めるもんね!」
「んー? 忘れちったや」
「うそぉ」
ああ、嘘。本当は覚えている。
置いていかれている君がとても心細げにしていたことも。
それを見て自分だけ先に行くことが出来なかったことも。
君が早く追いつけるように、誰にでもばれてしまうような手段をとったことも。
気恥ずかしいから、とぼけたフリ。
でも、君が覚えていてくれて素直に嬉しかった。
小さな、幸せ。
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