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「シロちゃんはいっつも優しかった」
「まるで今は優しくないみたいに聞こえる」
「昔っからずっと優しいなってこと。かくれんぼもそうだった」
「かくれんぼ?」
赤いランドセルはさっきからしばらく進んでいない。
焦っているのか、小刻みな足踏みが止まらないでいる。
「私、隠れるの得意でさ、誰も見つけられなかったじゃない?」
「あ! 最終的にみんな諦めて帰っちゃったやつか!」
「そう! それ! でもシロちゃんだけは残ってちゃんと見つけてくれた!」
「あれは相当苦労したんだからね。どこ探してもいないし、日は暮れて真っ暗になるし、やっと見つけたと思ったら泣き出すし」
クスクスと笑いあう。
知っている君の顔。そう、確かに知っていた。
「だって寂しかったんだもん! シロちゃん見たら安心して……」
「だったら自分から出て来いって-。も-、ホント負けず嫌いは困るっ!」
「シロちゃんだって私を見つけた時、絵に描いたようなホッとした顔してたくせにぃ」
ずっと一緒に成長してきて、お互いのことなら何でも知っていた。
好きも嫌いも、食べ物や芸能人、動物や色、歌や行動まで、とにかく何でも。
「そりゃ何時間も探して見つからなかったら不安にもなるっつーの!」
――あの時までは。
自分の中で君はどんどん特別な存在になっていって、もちろん君の中でもそうであるはずだと思い込んでいた心に、小さな穴が開いた、あの時までは。
『あのね、シロちゃん』
君は言った。
『どした?』
返した自分の声も口調も、更に言うなら君が相談してくる調子も表情も全てがいつも通り。
それがいつも通りの君との関係に、いつもと違う要素を割り込ませる話だと、どうして想像がついただろうか。
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