3人が本棚に入れています
本棚に追加
『好きな人がね、出来たの』
自分の知らない幸せそうなカオで話す君の、どうして邪魔が出来ただろうか。
本当は引き止めたかった。
アイツの良くない噂でもなんでもをでっちあげて。
離れていかないでと、縋り付いて。
でも、そんな時に限って感情も頭も落ち着き払っていた。
君に嫌われないようにということだけを考えて、臆病に。
「でも、なんでそんなずっと探してくれたの? 帰っちゃおうとか、思わなかったの?」
「んー……誰かさんは見つかるまで絶対出て来ないって確信してたからね」
「さすがシロちゃん」
「伊達にいつも一緒にいたわけじゃないさ」
自分の一番近くに居るのは間違いなく君で。
君に一番近い人物は自分だと信じて疑わなかった。
滑稽な一方通行。本当に、君だけを見ていた。
君しか、見えなかった。
「距離、開いちゃったね」
ぼうっと、外を眺めながら考えも無しに口にして、きっと笑っていたと思う。
「早く追いつけるといいね」
こんなにもドロドロとした想いを秘めていたのに、君が、ガラス越しの小学生のことを言ったから。
それとも、自分は隠し事が上手くなったのかもしれない。
そうでなくてはいつまで隠し通していられるか。想いは、常に膨らんでいく。
「……シロちゃんはさ、いっつも優しい」
今頃になって言い直した意図が分からずに君を見ると、大きくてクリクリとした瞳に、自分が映りこんでいた。
アイツしか見えていないものだと思っていたのに。
ひどく緊張する。
何かを見透かされているような気もしなくはない。
最初のコメントを投稿しよう!