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人魚は僕が入った鳥籠を左手に持ち替え、右手をパチンと鳴らす。
すると、ほわほわと白い煙が立ちのぼり、直ぐに30cm先も見えない程になった。
「人魚!これは何だ!何も見えないぞ!」
僕は不意に人魚がこの鳥籠をちゃんと手にしているのか不安になる。
「何よ、落ち着きのない人ね。ボートを出しただけじゃないの。それからあたしの名前を早くも忘れてしまったのかしら?」
煙で少しくぐもったミシェルの声が聞こえた。
「……ミシェルは人魚のうえ、魔女でもあるのか。ところで僕にも名前くらいある。木村栄太だ。」
「魔女……。まあ人間の言葉で言えば、そんなものかしらね、木村栄太さん。」
段々と煙は消え視界が明るくなる。
人魚は僕の入った鳥籠をどこかふわふわした所に置いたみたいだった。
さわさわと水が流れる様な音がきこえる。
「今、私が出した綿のボートに乗って輪廻の川をのぼっているわ。」
そう言われると、そんな気もする。しかし、あることに気が付いた。
「綿のボート?そしたら僕の命は持って後数十秒といったところかな?沈むじゃないか。」
「……死んで実体の無い魂の様な存在のあなたが死ぬって、何よそれ、ジョークのつもり?
それに、わたしが作ったボートが沈む訳ないじゃないの。」
なんだその筋が通りそうで通らない理屈は。
そんな話をしている間にも、僕らをのせた綿のボートは、輪廻の川を流れているようだった。
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