6人が本棚に入れています
本棚に追加
私も群集のひとり
郵便局のひさしの下で
巣づくろいしているツバメたちよ
お前は知っているだろうか
世界中がお前のスピーチを待っていることを
空のあまたある星も
雨とふる塵に似た命らも
風というよるべない流浪の民も
つばさなき我ら地上の群集も
誰もがお前の言葉を待ちのぞんでいる
ツバメよ、どこまでも高く空飛ぶツバメよ
とある慎ましい国の幸せを
またある遊牧民のつつがない昼下がりを
群青の海と花咲く丘の波間で
お前の涼しげな瞳が映したものを
美しいツバサのしたにひろがる物語を
どうか私たちに伝えてくれ
ツバメよ
お前は
そのつばさであらゆる空を
乗り越えてきた
ツバメよ
お前も飛んだいつかの空のした
一発の銃弾からひろがった戦火の嵐
火に洗われ続けた街なみ
惨い死骸のつらなり
そのごうごうたる黒煙に隠れた迫害
国と国が隠そうとした
それ以上の約束
たった70年前
あまたある私たちの
祖父の祖母の
父や母や兄
姉妹の
弟の友の
子らの
死せるはたった70年前のこと
ツバメよ
郵便局のひさしのしたで
巣づくろいしている恋人達よ
お前のその傷つき汚れたつばさが
私たちに物語るのは
今なお燃える死骸のありか
私たちの旅人よ
せめて私たちの胸に刻め
その賢いつばさで
お前の見てきた真実を
ツバメよ
たおやかな北国のこどもらが
春がきたとお前の到来に
手をふっている
ツバメよ
小さなツバメよ
お前は知っているだろうか
世界中がお前のスピーチを聞きたがっていることを
ひときわお前の望む幸せについて
誰もが知りたがっていることを
作 夏休み
最初のコメントを投稿しよう!