朱樂

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彼はチャイムを鳴らさない ピンポン等と安っぽい音は彼には似合わない コツコツと足早とは言えない足音がマンションのドアに近づく あの人は気持ちが急いていると知られたくないからわざとゆっくりとしたコツコツを私に聴かせるのだと思っている その足音のリズムを繋げるようにドアをノックする音 そこまで拘る彼が好きだ ドアを叩く あの細い指が私の頬に触れるのは月に2度 知り合った頃から変わらない決まり事 私も嬉しさを極力圧し殺し向かえるようにしている 感情を押し付けるような声や言葉が彼には雑音にしか聞こえない事に最近気付いたからだ 「おかえりなさい」 「ただいま」 虚しい夫婦ごっこから始まる秘め事
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