啄木鳥(ぜいらん)

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「はあぁ…」 今日、何回目の溜め息だろう 確かにこの日ついてなかった 休日を必ずと言っていいほどパチ屋で過ごしているが一度も当たりを見る事なく5枚目の諭吉を投入しようとしたとき携帯がなった 社長からだった… 急に欠員が出て出勤する羽目になったのだ 年期の入ったトラックはガタガタやたらうるさかった しかもワイパーも追い付かないほどのどしゃ降りの雨だ 「はあぁ」煙草の煙りと一緒にまた深い溜め息をついた時、近藤の目に1人の女が写った 「まさか…」近くに民家もない峠で女が傘も差さずに歩いている もし差していたとしても多分役に立たなかっただろうと思われるくらいの雨だ なのに女はまるで雨など降っていないかのように頭を手で覆う事もなく真っ直ぐに視線を向けて歩いている 思わず近藤は休みなく動くワイパーを確認した それくらい颯爽と歩いていたのだ 「イカれてるのか?」そう思いながらも見過ごす事ができずにスピードを落とし停車した 「おい!ねぇちゃん!風邪ひいちまうぞ!乗ってけよ!」 女はためらわず助手席に乗り込んできた ズブ濡れのままで… お礼を言う分けでもなく黙って前を見ている 無表情だがやや伏し目がちだった 長く濃いまつ毛まで濡れている 少しウェーブの掛かった髪からポタポタと滴が落ちている その滴を拭おうともしない事が気になって仕方がなかった しょうがない 近藤はまたトラックを道路脇に停めた 「寒くないか?」聞きながら洗い晒したタオルで髪を拭いてやる イヤらしくならないようにわざとゴシゴシと乱暴に 長めの前髪が別れ少し広めのオデコが覗く 「こっち向けって」やはり少し乱暴に顔を上げさせた 血の気の失せた薄い唇が小刻みに震えている 視線は反らす事なく真っ直ぐに向けられている 吸い寄せられるように唇を合わせた 「悪い!つい…」平手打ちを覚悟して一瞬、目をギュッと閉じた その時、女は初めて声を発した 「あったかい…」 近藤は冷えた体をきつく抱き締めた まるで自分が泣かせてしまった彼女を抱くように…思わずつぶやいた 「ごめん…」 女は本当に泣き出した 激しく嗚咽して 「ごめんな… ごめんな…」 近藤は強く、強く彼女を抱きしめ謝りつづけた…
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