第1話

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暗い、部屋の中だった。 厚いカーテンは外から差す光を遮り、それと同じように、 自分の心は人を拒んだ。 光を受けずにギラリと光る カッターの刃が妙に絢爛(ケンラン)に見える。 右手で、 それをきつく握り締めながら 左手の手首に、 ぎゅっと押しつけると、 糸のように細い線が横一直線に手首を横切り、 一拍おいて赤い液体がぷくっと滲み出た。 その生暖かく、赤い水は、 ゆったりと、腕を伝う…。 頭の中にかかった靄が、 すっと晴れていくような感覚に襲われた。 いつもそうやって確認していた。  ―自分はまだ生きていると
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