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おもむろに立ち上がり、エストは古びた棚の引き出しを開け、一冊の本を取り出した。そして、何の迷いもなくページを開く。
「……」
そのページには、一枚の紙のような物が挟まっていた。紙には一人の若い女性が写し出されている。どうやら写真のようだ。少し古ぼけており、皺が所々に見受けられる。
「僕、マリアを守りたいよ……ずっと」
写真を掴む手に力が籠る。エストは今にも泣きそうな顔で、その写真を見つめ、口を開く。
「許される願いなのかな……ねぇ、母さん」
写真に写った女性を“母さん”と呼び、涙を隠すように写真に顔を埋める。
魔属の男と人間の女が恋に落ち、そして子を孕み、エストはこの世に生まれ落ちた。
どんな思いで愛の育みをし、どんな思いでエストを産んだのか、今じゃあわからない。だけど、エストは一つわかった事があった。
マリアと触れあう事でわかった事。
――誰かを好きになるのに……理由はいらない。
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