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心の中の小さいモヤモヤが、雲一つない青空かのように晴れ晴れした気分に。エストはこの気持ちを言葉には出来なかったのだ。苦しい胸元をギュッと握る。
それを横目で見たマリアは、不思議そうな眼差しでエストを見つめる。口をゆっくり開き、
「それって……嬉しいって顔じゃないかしら?」
「え」
マリアの言葉を疑問に思ったエストは、向かいにある建物の窓ガラスに顔を映してみる。
そこに映っていたのは……ほんのり赤くさせた頬。口角が少しだけ緩んでおり、目は涙で滲んでいるようにも見える。
「これが、嬉しい時の?」
「なら言う言葉は一つよ。この言葉は、魔法の言葉なんだから」
「? マホウ?」
マリアは偉そうな態度で人差し指を立て、説明するかのように訳がわからないといった様子のエストへ諭す。
「そう。お互いが優しい気持ちになれる魔法の言葉なんだから!」
自分が映る窓ガラスからマリアに目線を移し、口を開かずマリアの言葉を、今か今かと待っていた。
すると、とびきりの優しい微笑みでマリアは桜のような小さい唇を動かす。
「“ありがとう”だよ」
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