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生まれて初めて口にする「感謝」の言葉。エストは暫し時が止まったかのように、ピタリと静止した。
マリアはそんなエストの両腕を掴み、ブンブンと勢いよく上下に振りだす。
「痛っ! いたいよっ。マリア」
「うふふ! エストもこれでありがとうを覚えたね! 良かった!」
痛みを訴えているエストをそっちのけで、目をキラキラに輝かせ、依然として腕を振りまくる。だが次第に、エストも痛みを感じなくなり、逆にマリアの嬉しそうな表情につられ、ぎこちなさそうに口角をあげた。
エストは、その時ようやく「嬉しい」という感情がわかった。自然に溢れる笑みと、目の前にいる優しい少女の微笑みがそう語りかけていた。
「……僕、ちょっと家に戻るよ」
「わかったわ。またね!」
そう言われたマリアは、素直にエストの腕から手を離して、空になった右手を軽く振り、バイバイをした。エストはそんなマリアに見送られるように、村から少し離れた小屋に足早で戻っていった。
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