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「山村さん・‥、専務から内線2番です。」
右向かいのデスクから、言いづらそうに声がかかる。途端に元々良くない気分が更に落ちていく。
電話が面倒なんじゃない。電話の先の人物が問題なのだ。・・・・でも放棄する訳にはいかない。
浅く息を吸い、微かに震える手で受話器を取る。
「・・・お疲れ様です。山村です。」
「お~!山村君!忙しい所悪いんだけど、僕のデスクにある茶封筒の書類を届けてくれるかい?」
妙に馴れ馴れしい専務の野太い声が脳内を支配する。
「はい、只今お持ちいたします。」
重々しく受話器を置くと同時に、隣デスクの椎名恵美香が含み笑顔を浮かべて寄ってくる。
「山村さぁん、また呼ばれたの~?」
「あ、うん…。」
興味で爛々とした目。
この子はこの部署で唯一の同期だけど、正直得意じゃない・・・。
専務からセクハラを受けているのはこの部署の女性社員の一部が知っている。椎名さんもその一人。
「大変ね~またセクハラされるんじゃなぁい?まぁ仕方ないのかなぁ~?それじゃ・・・ねぇ。』
チラリと向けられた視線の先の“それ”とは私の胸を指している。
「・・・・・。」
「代わってあげたいのは山々だけどぉ~~、恵美香も仕事がかるからなぁ~~~?」
クルクル綺麗に巻かれた栗毛に指を絡ませながらわざとらしく困ってみせる。
「大丈夫よ行けるから。椎名さんも仕事頑張って。」
『全然大丈夫なんかじゃない。でも仕事はしなきゃ。』
専務のデスクの封筒を確認して会議室へ向かった。
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