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空が若干明るみを帯びてきた夜明け前、浅原繰夜は目覚めた。
時計を一目見た繰夜は、溜め息を交えながら
「何ヶ月振りに夢に出て来るんだよ……歩未(フミ)……」
ただ、もう存在しない最愛の人の名前を呟く。
永原歩未、繰夜の全てに影響を与えた人物であり、彼の一番の理解者。
彼女を目の前で失った繰夜の精神状態は、自殺をしかねない状態――彼女の存在はそれほど大きなものだった。
「忘れられるわけないしさ……むしろ引きずってるのにさ、何で出て来るかなぁ……」
彼女を失ったのは丁度二年前の今日、再臨祭での事だった。
ただ再臨を祝い、いつものように話しをしながら一日を過ごし、いつものように駅前の交差点で別れ、いつものように見えなくなるまで見ていた。
しかし一瞬で彼女は視界から消えた、
運転手の不注意による交通事故だった。
あの時の自分も、夢の中の自分も何も出来なかった。
その日から繰夜は大切な者が失われるのを極端に恐れ、嫌った。
「竜伸ってさ、馬鹿な奴がいるんだよ。お前には負けるかも知れないけどさ……、でも良い奴なんだよ。お前に負けない位にな……」
届くはずが無い、そう決まってる言葉をただ続ける。
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