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「笑顔も前より増えてきたし、楽しいって思える日もあった……。でもさ、やっぱり何か足りないんだよなあ……」
「馬鹿なことを言ってるってのは、わかってるさ……。でもさ会いたいんだよな、歩未……」
目を閉じ、まるで歌うように言葉を続ける。
しかし、彼が最後に発した言葉は音のように空気を振動し、周りに伝わることは無かった。
そして、不意をつかれたように慌てた声が室内に響く。
「だ、だだだ誰だ? もしかしたら泥棒かな? でも私は守護霊、つまり声なんか聞こえない筈だし……」
目を開き、声がした方に目を凝らす。声がした方向にいたのは、困った表情を浮かべる少女だった。肩まで伸びた茶色い髪は所々に癖があり、少し古めかしく髪には洒落たサングラスが光って居る。しかしそれよりも目を惹いたのは、彼女のバイオレット色の瞳だった。
彼女は繰夜が愛した永原歩未と瓜二つ、というより同一人物のようだった。
「歩未……なのか?」
「声が聞こえないな……、つまり私の幻聴なのか……」
どうなってるんだ?
繰夜は理解出来なかった。姿も見えて声も聞こえる、なのにこちらからの声は相手に伝わらない。
しかし、さっきの声は伝わったらしい。
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