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第一話 神に愛された少女
「……え、えっと、み、皆さん揃いましたね?そ、それでは、ホームルームを始めますね」
「………」
――その日。
その日は、僕にとって記念すべき高校生活の新たな始まりの日になるはずだったんだ。
「…え、え―と…。
担任の芙蓉 手鞠(ふよう てまり)といいます。
今年一年よろしくお願いしますね♪」
「………」
時は4月。
桜が満開の―――花見をするには絶好である季節。
今日はそんな季節の中でも一大行事の一つでもある入学式。
――そして、今はそんな入学式の中でも新たな学校生活の始まりともなる、クラスメイトや担任との初対面の最中―――だったのだが、
「あ……それじゃ、定番の自己紹介でもしてもらおうかな、なんて……」
「………」
今や、必死に状況を打開しようと孤高奮闘する担任を余所に、教室の中はなぜか変な緊張感に包まれていて誰からも全く反応がない。
―――言わば、静寂に包まれつつあった。
(……なんでこんなことに……)
……それもそのはず。
今や、生徒たちからの好奇の視線は本来向けられるべきはずの担任ではなく、たった一人の男子生徒。
僕、東雲 撫子(しののめ なでしこ)になぜか、その目は向けられていた。
……一体、どうしてこうなったのか。
事の始まりは入学式前日。
―――つまり、3月31日まで遡る。
「おお。あの子なんてどうでしょうか?点数が高いと思いますが……」
「ほほぅ。目の付け所がいいね。第三候補者ってとこかな?」
「……」
「やや。あっちにもなかなかの上玉が…!」
「ふむふむ。確かに悪くはない。だが、あれはすでに男がいるね。
よく見てごらん。薬指に絆創膏がある。
古典的ではあるが、あれは結婚指輪が下に隠されてある、と私はみるね」
「……」
「なるほど。盲点でした。よく見てますね。おじさんは」
「なに、経験からきているものだよ。しかし、君も見る目がある。その若さでその隻眼。かなりのものだ」
「……」
「いやいや。そんなたいそれたものではないですよ。明日から高校生にやっとなる、という青臭いガキですし」
「ほほぅ。その実力で高校一年生、とな。だとすれば、実に有望性ある人材だ」
『あっはっはっはっはっはっ』
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