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「どうしました?」
またスカンダが聞く。
カツン。
「……」
ヴィシュヌは駒を動かさない。いや、動かせない。どの位置に何を動かしても、何も変わらない――。
「はぁ…また私の負けか」
ヴィシュヌが言い、スカンダはホッと息を吐き、ガネーシャはおお~と手を叩いた。
「すごいパオ!」
「まったくね。よくあのような不利な状況から勝ちまでもっていけるものだ。何か秘訣でもあるのか?」
「そうですね…勝ちに転じている時ほど、守りが少し緩む所が出てきやすい。そこを見つけて、気付かれないように叩くような感じでしょうか」
「ふうん…なるほど」
私に緩みが出てしまっていた訳か、とヴィシュヌは苦笑する。
「どおりで勝てない訳だ。本当の戦でも」
「……」
スカンダは何も言わずに、倒れたチェスの駒を直した。白と黒の駒は美しく、均等な数でそこにいた。
「さて、私は戻るかな」
「もうお帰りになるのパオ?」
ガネーシャが首を傾げる。ヴィシュヌはその頭をゆっくりと撫でた。
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