懐かしい温もり 昼過ぎの夢

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ヴィルヘルムの表情が一瞬固くなった気がして、クリスティーナは机に寄りかかったまま首をかしげた。 「ヴィル?」 「…実は…」 ヴィルヘルムの目線が外れた。 「その、誠に申し上げにくいのですが…」 「なぁに?」 「先程、机で寝ていらっしゃるクリスティーナ様があまりにも気持ちよさそうだったので…。僭越ながら、御髪を撫でてしまいました」 「…なぁんだ」 そんなことか。クリスティーナはまたうふふと笑った。 「もっと撫でてくれても良かったのよ?」 「いえ、そんな…」 「じゃあ、撫でて?」 「はい?」 ヴィルヘルムが珍しく戸惑っている。クリスティーナはそれが面白くもあり、何とはなしに懐かしくもあった。 「俺が、ですか」 「他に誰がいるの?」 「…いません」 「じゃあ撫でて?」 再び言うと、ヴィルヘルムは少しの間言い訳を考えていたようだが、諦めて軽くため息をついた。 「分かりました」 ぽん、とクリスティーナの頭に手が置かれた。 “お父様のより、大きくて力強い” だが、撫で方はそっくりだ。 「ヴィルの手、優しいね」 「そう…ですか?」 「うん」 “なんだか、あったかいのよ” ――お父様へ。お母様はいなくなってしまったけど、私は皆に囲まれて幸せです。――
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