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そのヨウタとこれから会うという芽衣子と別れ、諒と私はバス停へ向かって歩き出した。
「ミツルと一緒に実家帰るの、久しぶりだなあ。実家行きのバスの時間さ、昔に比べてすごい増えてるのな。駅も気がついたらなんか大きくなってるし」
「うん、少しずつかわってるよね」
駅前の商店街は道幅が大きく広がって、この街にそぐわないようなお洒落な佇まいのカフェが出来ている。
高校時代の帰り道にコロッケを買っていたお肉屋さんがなくなっていてしんみりしたり、昔からある金物屋さんや写真屋さんがかわらず営業しているのを見てホッとしたりもする。
「諒はさ、地元好きだよね」
「うん? まあそうだなあ、好きと言われれば好きかな。なんで?」
スマホのゲーム画面から目をそらさずに答える諒を横目で眺め、それから再び窓の外へと視線を向けた。
「私は、ここに住んでた時はあんまり好きじゃなかったなあって思って」
スマホ画面から顔をあげた諒が不思議そうな表情で私を見つめる様子が窓に反射して目に入り、それがなんだか可笑しくて、ほんの少し笑った。
「そうなん? なんで」
「うーん、全体的に、なんとなく」
小学校、中学校、高校まで。この街で過ごして、友達もいたし、楽しい出来事だって思い出せる程にはある。けれど、私はこの街が好きじゃなかった。
離れてからは帰ってくるのが少し苦痛で、足はどんどん遠退いた。
お母さんとの死別を思い出してしまう電車が嫌いだったり、駅から離れた土地にある実家もすきじゃなかったり、そのうち和子さんとの事もあって、益々帰らなくなって、それでも地元が懐かしいとか帰りたいとか、そういった感傷的な気持ちは湧かなかった。
「……でもなんか今回帰って来たらさ、今までと違う気がしたの。あ、帰って来た……って思った。なんていうか、こう、うまく言えないけど」
まあどうでもいい話だよねと弟の方へ振り返ると、おもむろに頭を撫でられた。ぎょっとして弟を見つめれば、含み笑いの表情で私を見つめている。
「よくわかんねぇけど、きっとミツルの中でなんか色々邪魔だったものとか剥がれて、視界がクリアになったんじゃねぇの? あと俺も一緒にいるしな」
最後の一言はよくわからないけれど、諒の言葉はなかなか良い回答かもしれない……と心の中で頷いた。
そういう事なのかもしれない。
「どうでも良いけど姉の頭を弟が撫でるってなに。やめて」
「うるせぇな、俺がミツルに何しようと俺の自由だろが」
くだらない小競り合いをしているうちに実家へ到着し、弟と私は久しぶりに二人揃って実家の門をくぐった。
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