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私は右腕を庇いながら左手で体をささえ、土方歳三に近寄り耳打ちをした。
「……芹沢鴨(セリザワカモ)はまだ生きていますか?」
土方歳三は、目玉がこぼれ落ちそうなほど目を見開き、驚いていた。
"芹沢鴨"と言うのは、新撰組のもう一人の局長で、新撰組の前身である壬生浪士組からのメンバーである。
なかなか人望の厚い人ではあるが、大阪で力士と喧嘩したり、近江水口藩公用人を脅迫したりと普段から乱行が目立っていた。
仕舞いには大和屋と言う生糸問屋が、献金を渋ったため、短気な芹沢は土蔵に火を放ち、さらに大砲を発砲。町中にある大和屋を焼き払い、打ち壊してしまったのだ。
この一件を知った壬生浪士組の上司である松平容保(マツダイラカタモリ)は激怒し、近藤らを呼びつけて芹沢を処分するように言いつけた。
その後、壬生浪士組は新撰組に改名し、芹沢は近藤らに暗殺されてしまう。
なぜ、私が芹沢鴨についてここまで知識があるのかというと、瑞希が新撰組ヲタクだったから。
新撰組ヲタクと言っても生半可なヲタクではなかった。瑞希の語り口は、まるでその場に居たかのような生々しさと詳細さがあり、聞くものを引きつけた。
歴史が苦手な私でさえ、のめり込んで聞いたものだ。
そう、その瑞希が言っていた。
暗殺は近藤・土方・沖田・山南・原田が行ったと。そして隊内には長州にやられたと説明し、この暗殺についてはごく少数の幹部しか知らされていないと。
今日が何日なのか分からないから、すでに暗殺されてしまってるか分からない。
ただ、新撰組にもう改名されていると言うことは、松平容保から暗殺命令がでているはず。
だから"まだ生きていますか?"なのだ。
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