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「心臓なんて……あげられない」
彼の発言にわたしは驚愕した。男は女体を欲するものだとは聞いていたが、まさか心臓を欲する男性が世に存在するとは思わなかった。
「ありゃりゃ、驚かせちゃった?ごめんごめんちょっと作者さんとの打ち合わせができてなくてさこういうときどう言えばいいかいまいち分からねんだわそうだなこういうときは契約といこうや!」
やたら早口で、止めることもせずに長々と話し出した。
「あんまそういう文才のない地の文やめたほうがいいべそ?」
おまけに口調もころころ変わる。この人と会話するのは少し骨が折れそうだ。
「契約っつーのは、僕ちんとあんたが約束をする代わりにあんたの心臓をおいらにちょうだいってことなわけよ?まぁ時間もないさかい契約の内容は俺様が決めるすけ、悪く思わないでおくんなさいまし?」
一人称もころころ変わるようだ。この人は壊れているのか?
「なぁ頼むからさ笑ってくれないそんなふうに警戒した態度ばっか取られてると俺っちつかれちゃぶよ?そっから『こいつ痛い人』みたいな目で見てるあんたらもやめた方がいいぜ?」
まさか、わたしを笑わせようと思っていたのか。あり得ない。こんな物騒な話題で笑える人がいたら会ってみたいものだ。
「あらあら、どうも嫌われてるよわたくし。まぁいいんじゃないかな?で契約の内容だけどおめちゃんが死にそうな目にあったらあっしが助けるためえっちらおっちら七転八倒悪戦苦闘いたしまするのでよろしいか?」
明らかに怪しすぎる誘いだった。しかし、一度助けてくれた男だ。どういうわけかわたしは彼を信じてしまった。これがわたしと彼のファーストコンタクトでありワーストコンタクトである。
「オッス、オラエンキドゥ、あんたは?」
「わたしは、サキ。よろしく」
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