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結局それから数日が過ぎたが、彼女の身の上にはこれといって危険は降りかからなかった。村人にいじめられているような場面は多少なりともあったが、それはすべて彼女の友人が解決してくれたようだ。
「これじゃあわたくしも商売上がったりですねぇ……」
誰に語りかけるとなく、サキの屋根の上で呟くエンキドゥ。
だがこの男、思いの外律儀なようで、彼女の願いを叶えぬ限り、強引に心臓を奪い取るようなことは絶対にしなかった。自制心がなくなったとしてもそれなりの心構え、約束というものは守る気でいるらしい。
その為か、サキもエンキドゥを目の敵にせず、毎日食事も共にし、寝るときは布団をしいてやっていた。こんな生活をしたことがなかったエンキドゥにとって、彼女は成り行きでできた奥さんのように思えてしまっていたのかもしれない。
それから月日がたち、雪の季節となった頃。サキの下に村長たちが訪ねてきた。彼はだいたいこんなことを言った。
「今宵、お前を山の神様に捧げる。毎年十二歳の娘を山に捧げているのはお前も知っているだろう。今年はお前の番だ。準備は既に出来ている。さっさと来い」
村長に担ぎ上げられ、引っ張られていくサキの表情は、後悔と諦め、そして憎悪が入り交じったような、なんとも物悲しい表情だった。
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