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エンキドゥが降り立ったのは、草木がうっそうと生い茂る山の中だった。人が通ったような痕があることから、人里からそう離れてはいないようだ。
しかし、穢れなき乙女など、どうやって探せばいいものか。あの男は詳しいことを何も教えてはくれなかったし、手掛かりなど見つからない。
「待てー、物の怪め!」
生い茂る木の向こうから、何やら物騒な叫び声が上がっていた。物の怪などというくらいだから、そうとうな大物を追いかけているのだろう。人がいるのなら話が早い。何かしらの手掛かりを得ることができるだろう。
エンキドゥは木々の間を駆け抜け、声の主を探し走った。足を進めるごとに聞こえるその野太い声から、近づいていることを確信した。
ついに林を抜け、目の前に現れたのは、想像していたものとはまるで駆け離れた光景だった。
男たちは刀やら槍やら弓やら斧やら、とにかく目に写る武器になりそうなものを集めてきたのか、あれやこれや振り回しながら、ある一点に集まっていた。
その中心にいるのは、周りの男たちから蹴られ殴られ散々な目に逢っているようで、全身に青アザを作りながら、それでいて美しい黒髪をおかっぱ頭にした少女だった。その瞳は兎のように赤く、着ている浴衣はすでに泥だらけである。
「お前は物の怪の子なんだろ!?」
「違う!」
「俺たちの家や庫から米が消えた。そして動物の毛があった。お前の仲間だろ!?」
「違う!違うわ!」
……どうやら、弱い者虐めをしているらしい。端から見ていて、とても気持ちのいい光景ではなかった。というより、とてつもない苛立ちを覚えてきた。
「やれやれ、いきなりかよ」
先ほどもらった鎖を、早速使うはめになろうとは思わなかった。
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