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その太刀筋はまさに疾風の如く、鎖が渦を描くように回り、そのままわたしを殺そうとした男たちの太刀を撥ね飛ばしていった。
しかし彼は誰一人殺めることなく、的確に太刀だけを弾いていった。その姿にわたしはある種の感動と、ある種の恐怖を覚えていた。その場から足を踏み出すことも、退くこともできず、わたしはその姿を見つめていることしかできなかった。
「いいかてめぇら!この娘っ子に手ぇだしたらたたじゃすまさねえぞ!」
どうやら彼に恐怖を覚えたのはわたしだけではなかったようで、太刀を撥ね飛ばされた男たちは我先にと逃げ出し、振り向くことなく駆けていった。
「さぁて、邪魔者もいなくなったし、尋問といきますか……」
その時わたしは、先ほど感じた恐怖の訳に気付いた気がした。この男を正義の味方のように思っていたが、今の言葉を考えるに彼の目的は恐らくわたしだ。
理由は分からないが、わたしの心が逃げろと叫んでいた。しかし足がすくみ、走りだそうにも動かない。
ついにわたしはここで死ぬ。これはもう変えることができないだろう。
「あんた、名前は?」
彼がわたしに放った第一声は、なんとも優しい声だった。
「わたしは……サキ」
わたしがなぜ答えているのか分からない。断じて彼に対する警戒が解けた訳ではない。
「へえ……可愛い名前だな」
そして彼の二言目は、わたしの予想したものとは駆け離れていた。
可愛いなんて、言われたことはない。いつもわたしに降りかかる言葉は、不気味、疫病神、邪悪……。そんなところだった。
「見たところ、けっこう綺麗そうだし、よし決めたぜ!あんた、俺に心臓を差し出せ!」
そして彼の三度目の言葉は、わたしの想像を遥かに越えていた。
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