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「ちょっと待ってくれ、何だ今の?」
次の瞬間には何事も無かったかのようにその場から去ろうとする彼女。
慌ててその背中を引き止める。
「あなたの怪我は治した」
「治したって…?」
「まだ痛みはあるだろうけど、明日には痛みもなくなる」
「え…?」
言われて力を入れてみると、驚くことに何の問題もなく、腕を簡単に肩の高さまで上げることができた。
確かにまだ多少の痛みがあるものの、これならほとんど生活に支障が出る程ではない状態だ。
「…マジか。一体どうやった?」
「……………」
またもやこちらの問いに答えることなく、視線を海に向ける。
その緩んだ口元は…どこか満足げだった。
「じゃあね…」
「お、おい…!」
…そして、彼女の姿は景色に溶け込むように消えた。
風に踊らされていた腰までの長い髪は、月の光の筋を残して、暫く俺の目に焼き付けていた。
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