ー 第一章 ー

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それは、『惨劇』の三日程前 ー紫月邸・客間ー  紀世乃 「ごめんなさいね、左之君。葵は、今あの人と稽古中で。せっかく『兄上』が会いに来てくれてるのに! あの人、稽古中は邪魔するなって怒るのよ。」 葵の『実兄』である、原田左之助を前にして、紀世乃は拗ねた様に言った。 原田 「気にしないで下さい。葵の稽古が終わるまで、待ちますよ。」 紀世乃 「そう?悪いわね。・・・・・・・左之君。少し話をしてもいいかしら?葵のことなの。」 紀世乃は、先ほどまでと違い、ひどく真剣な顔をしている。 原田は、黙って頷いた。 紀世乃 「左之君。これから先に何があっても、何が起こっても、貴方だけは葵の味方でいてあげて。 葵を護ってあげて。」 原田 「紀世乃様?どういうことです?」 紀世乃 「あの子には、幸せになって欲しいの!私も宗太郎も、それを望んでる。 そして、それは『陽奈』の願いでもある。」 原田 「母さん、の?一体どういうことなんですか。」 紀世乃 「葵には、この先様々な困難、災難が降り掛かるでしょう。その全てから護ってあげて。 あの子の兄である貴方には、『何を今更』と思うかも知れないけど…!」 そう言って、紀世乃は泣きながら原田に頭を下げる。 原田 「どうか頭を上げて下さい、紀世乃様。 ・・・・・『約束』します。何があっても葵を護り、味方で居続けます。俺は葵の兄だから、葵は俺の妹だから。」 紀世乃 「!ありがとう、左之君。本当に、ありがとう。」 原田は、ふと、湧いた疑問を紀世乃に問う。
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