夜だった。

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夜だった。

 私は、夜道を歩いていた。細い川が道の隣に横たわり、それを挟んだ向かい側に桜の木が並ぶ。まだ花は咲いていなかった。  若い女が1人で暗い夜道を歩いている。こう表現すると明らかに危険な状況のように感じるけれど、いつもアルバイト先から暗い夜道を自転車で帰る私にとっては、たいして特殊なことではなかった。  そんな私でも、夜道で人とすれ違う時には不安を感じる。その不安の大きさは、やはり自転車と徒歩では違う。もし危険人物に出くわして、走って逃げきることができるのだろうか。  歩いていると、前から人が歩いてきた。釣り人のような格好をしていた。中年男性のように見えた。手には、長い竿のような物を持って。  キケンだ。と脳が言った。  しかし、夜道に2人、正面から対峙してしまった。私が警戒すると、男は長い棒を振り回してきた。それは、釣竿のようにしなる物ではなく、薙刀や槍といった武器でもなく、物干し竿みたいな棒だった。  それで殺される。と思った。
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