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―四年後―
蝉の鳴く声がやけにうるさい。
もうそろそろ鳴き止んでもいい頃なのに、今年はなぜか未だ夏は盛りだとばかりに鳴いている…
太陽に焼かれたアスファルトからはもやもやとした陽炎が立ち上り、遠くには逃げ水まで見える始末。
もしかしたら向こう側にオアシスでも見えるんじゃないかと、馬鹿な考えに目を凝らしてもみた。
当然ながら何も見えない。
―…やっべ、やっぱり備えた苺大福持ち帰るんだった…
そんな馬鹿な思考を脳内から追い出し、ポタポタ落ちる汗を拭いながらそんな事を思う。
日影でそれなりに快適な温度だった為に油断した、なんてこった。
あの寺の木陰特有の涼しさに騙された。
せっかく今日墓掃除したんだがなぁ…
内心がっくりと肩を落とし、明日仕事帰りにでも立ち寄ってお墓を掃除しようなんて考えながら、流(ナガレ)は古びたアパートの階段を上がった。
妹の灯が事故で死んでから早四年。
今日は灯の命日だった。
だが未だに実感が湧かないのも事実…
気づけば視界の端に、ふわふわと躍る真っ白なワンピースの裾を探している。
「…はっ、今日の俺はどうかしてる…」
独り言がやけに大きくこだました。
コンクリート剥き出しの、所々崩れた壁達がお互いに他人様の呟きを投げつけ合う。
どうかしてるのはきっと残暑の所為だ、そう思う事にしよう。
半ば強引にそう結論付けると、カバンから鍵を取り出して鍵穴に差し込む。
ギイギイと耳に付く音を立てる玄関を開けると、ひんやりした空気が頬を撫でた。
「あれ…もしかしてクーラー付けっぱなし…」
いや、一昨日からクーラーは故障していて今は業者待ちだ。
じゃあこの冷気は何なんだろう…
妙に肌に纏わりつく。
気温的には快適な筈なのに何故か流は小さく震えた。
気味が悪い…
だがいつまでも玄関に突っ立っているわけにもいかないので、恐る恐る一歩踏み出す。
しかもこんな時に限って床板が大きな音で軋んだ。
―くっそ、こんのボロアパートめっ…!!
今度は声には出さなかったが、密かに悪態をつく。
怖くなんてないんだからな…!!
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