第一章

16/17
前へ
/142ページ
次へ
す、と衣擦れの音と共に撫子が立ち上がる。 そこでまた驚くべき事があった。 その身長は、義隆の胸にも満たなかったのだ。  綺麗な立ち姿に見とれていると、撫子が義隆へ近づいてくる。 綺麗に円を描くつむじに、義隆は落ち着きを失う。  くい、と撫子の顔が笑顔のまま上げられる。 「お荷物お持ちしましょうか」  差し出された両手に義隆は逡巡する。 いかに人形とはいえ、こんな小さな女性に荷物を持たせる事は出来ない。 「いえ、大丈夫ですよ」と断ろうとした瞬間だった。  ごとり、と。 向けられた手の片割れが、床の上を転がった。 撫子の笑顔より、更に視線を下に向けてみれば、そこには手袋を嵌めた肌色の塊。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加