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一階の、玄関から一番奥にある部屋を『床の間』と呼ぶ。
庭に面したその部屋は、宿泊客のロビーと化していて、暇さえあればそこに集まるのだそうだ。
義隆が入ると、そこには既に先客が居た。
「おはようございます」
宿泊客である老夫婦、藤原(ふじわら)宗司(そうじ)と佳代(かよ)である。
「あら、おはよう。早いのねぇ、義隆くん」
縁側へ座っていた佳代がこちらを振り向き、柔らかな笑みを浮べた。
妻の行動でようやくこちらの存在に気付いた宗司が振り向いたので、義隆は頭を下げた。
五年前に失聴してしまった宗司は、音や声に対しての反応が出来ない。
常に佳代が共にいて、彼女の反応で状況を判断しているのだそうだ。
読唇が出来るので会話が出来ないわけではないが、宗司はあまり言葉を発さない。
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