第二章

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「『夢で逢いましょう』……。素敵よね。撫子さんが教えてくれたの」 「へぇ……」 「花言葉って素敵よね。その花の性格まで見えてくるみたいで」  もう一度、紫色の花へと視線を戻した。 そしてようやく違和感の正体に気付く。  昨日、この宿屋へ来るために通った石造りのアーチに彫ってあった柄が、この黒種草だったのだと。 ――ぞくりと。 脊髄を、氷が滑り落ちた気がした。  無意識にジーンズのポケットに入った携帯電話を取り出す。 ぱくりと開ければ、液晶に表示されるのは“圏外”という単語である。 少しおかしいとは思っていたのだが、この宿屋は電波が通っていないのだ。 テレビも無ければ電話も無い。 持ってきたノートパソコンがネットに繋がらないのは仕方のない事だが。
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