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『床の間』で小説を読んでいる時だった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、三森(みもり)様」
聞き慣れぬ名を呼ぶ撫子の声が、玄関から聞こえて来た。
義隆と同じくキャリーバックなのだろう、ガチャリと忙しない音が響いた。
それと共に不機嫌な女性の溜息。
撫子が溜息なぞ吐くわけがない。
どうやら三森と呼ばれたのは女性のようだ。
「わたくし、『すずの荘』の女中をしている絡操(からくり)人形、撫子(なでしこ)と申します」
撫子は義隆の時と全く同じ定型文で、全く淀みがない。
三森は返事をしなかった。
心配になった義隆は、小説から顔を上げて玄関を見やる。
「お荷物お持ちしましょうか?」
そう言った瞬間だった。
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