第二章

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『床の間』で小説を読んでいる時だった。 「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、三森(みもり)様」  聞き慣れぬ名を呼ぶ撫子の声が、玄関から聞こえて来た。 義隆と同じくキャリーバックなのだろう、ガチャリと忙しない音が響いた。 それと共に不機嫌な女性の溜息。  撫子が溜息なぞ吐くわけがない。 どうやら三森と呼ばれたのは女性のようだ。 「わたくし、『すずの荘』の女中をしている絡操(からくり)人形、撫子(なでしこ)と申します」  撫子は義隆の時と全く同じ定型文で、全く淀みがない。 三森は返事をしなかった。 心配になった義隆は、小説から顔を上げて玄関を見やる。 「お荷物お持ちしましょうか?」  そう言った瞬間だった。
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