第一章

8/17
前へ
/142ページ
次へ
 電車から降りた場所はアナウンス音すら響かぬ無人駅。 不安に駆られた義隆は、パソコンでプリントアウトした用紙をぐしゃりと握り締めた。 叔母から入社祝いに買ってもらったばかりの、ビジネス用の大きなキャリーバックを手に途方に暮れた。 ベンチひとつない閑散としたホームには人影がなく、走り去る電車の走行音が、妙に近く感じる。  取りあえずコーヒーでも飲んで落ち着こうと自動販売機へ近づくが、「タピオカミルク」と「みかんゼリー」、そして不自然なまでに黄色いパッケージの「飲むプディング」以外は全て売り切れだった。 ――何で残っているのがよりにもよってこの三つなんだ!  せめてカフェオレが残っていれば、妥協ができたものだが。 これでは何も飲まぬ方がマシである。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加