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グラスの中の氷は完全に融けて、アルコールと混ざりあっていた。
僕はグラスの中の薄いアルコールを一気に飲み干して、ゆっくりと深くため息を吐いた。
そんな僕を見て、友人が突然吹き出した。
「どうしたんだい?」
僕が不思議に思って尋ねると、友人は笑いながら言った。
「お前は恋をするといつもため息を吐くんだな。ため息を吐くと幸せが逃げていくんだぞ。知らないのか? そんなにため息ばかり吐いていると、上手くいくはずのものまで上手くいかなくなるぞ」
「なんだ、そのことか。それならばいいんだよ。僕は僕でいられるように、ため息を吐くんだ」
「よく意味がわからないな」
「痛み止だけでは、僕の病を本質的に癒すことはできないからね。僕はこうしてため息を吐くことで、病によってもたらされた毒を、僕の外側に吐き出しているんだ」
「理解に苦しむが、お前がそれでいいのならば、俺は何も言わないよ」
「ありがとう。乾杯しよう」
僕がそう言って、空になったグラスを友人の方に突き出すと、友人は自分のグラスを持って、僕のグラスに合わせた。
静かな店の中に、グラスとグラスのぶつかる小さな音が、いやに響いた。
そして、僕はもう一度、深くため息を吐いた。
今回の恋の病による毒はずいぶん多いようだ。
僕のため息も、しばらく続きそうだ。
(完)
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