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最低限のマナーを考慮してなのか、シーナはとりあえず居間から退席した。
どうやらベランダに出たようで、垣間見える表情から察するに、それなりに緊迫した内容のようだ。
「そろそろ戻らなくちゃ」
不意にルディが告げる。
再会してからまだ一○分もすぎていないのだが、ルディはシーナに配慮してなのか、入ってきたときとは逆の玄関に向かっていた。
「もう行くのか?」
「こうしてる間に“魔導協会上層部”は準備を進めてるはず。少しでも奴らの情報を集めなくちゃ」
告げるルディの瞳には決意の色がはっきりと見えた。
それだけ“魔導協会上層部”が憎いのか、はたまたただの責任感なのかは解らない。
だが、そのルディを止めることが、どんなに野暮なことなのかは、黒斗にだって理解できる。
少年は一週間前と同じように、柔らかな笑顔で少女に告げる。
「気をつけろよ。それと、いってらっしゃい」
少女は力強く頷いて、
「わかってるわ。あと、いってきます」
玄関の扉を開くと、人差し指と中指を立てた右手を、ずいっと前に押し出した。
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