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「女優の……」
「誰だっけ。あの子に似てるよね」
高橋さんに突然そう言われた。高橋さんは年末の短期アルバイトで入ってきたので、ここでは私の後輩にあたる。そして私より3つ年上。目がぱっちりしていて、はつらつとしていて、年下の私が言うのも変だけれど、第一印象は若々しい好青年。
スーパーのレジをしている私と品出し担当の高橋さんは、姿を目にすることはあっても特に会話をすることはなかった。それが、高橋さんがレジの前を通りかかる時、私をじっと見て突然言ってきたのだった。
「え?女優ですか?」
話し掛けられたことに驚き、そんな当たり障りない応えしかできなかった。
「うん。名前出てこないな、若い子」
それだけでは全く見当がつかなかった。第一、私から有名人の名前を上げるのも変な気がした。
「なんて名前だっけ……」
高橋さんはそう言いながら、店の裏に戻っていった。
それが初めての会話だった。
「志田未来だった!」
次にアルバイトが重なった日、高橋さんがそう言ってきた。
「オレ、あれから超調べたよ。志田未来に似てる」
わざわざそんなことを報告してくれた。
気さくで、人見知りしない人のようだ。
それからよく話した、というようなトントン拍子の展開はない。ただ歳の近い仕事仲間という関係のままだったけれど、親近感のようなものは生まれていた。
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