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「青島さん。高橋さんて、かっこよくない?」
同じレジ打ちの湯井さんが、ある日そう言ってきた。互いに名字で呼び合っているが、仕事上何となくそうしているだけ。同い年で、湯井さんは専門学校の2年生。もう就職が決まっているため、来年の3月にはここのバイトを辞めてしまう。大学2年生の私はあと2年辞める予定がないので、女の子の仲間が減るのは寂しい。
「そうだね。かっこいいと思う」
素直に頷いた。
「だよねー」
2、3ヶ月前に彼氏と別れた湯井さんが、明らかに、わかりやすくはしゃいでいる。高橋さんの姿が見える度に、湯井さんの整った顔が綻びるのを見るのは面白かった。
「彼女いるか、聞いてみて」
突然そんなことを言ってきた。恋する乙女ゆえのもどかしい願望。
「私が?うーん、チャンスがあったら聞いてみるよ」
「ありがと。私も頑張ってみるから」
そんな話をして、湯井さんがレジを離れた時、高橋さんが現れた。
「青島ちゃんて、二十歳だったよね?」
「はい」
「高校生くらいに見えるよ」
「そう、ですか?」
もう飲酒できる歳になったのに、喜んでいいのか悲しむべきか、複雑だ。
「うん」
高橋さんは強く頷き、去っていった。
1人、レジに残った私。
……聞けないよ。
たとえ私自身が高橋さんのことを気にしていたとしても、いきなり「彼女いますか?」とは聞かないと思う。
湯井さんが戻ってきて、高橋さんと話したけれど彼女について聞けなかったと報告した。
「高橋さんと何話したんだよう」
湯井さんが羨ましそうにしながら、冗談ぽく聞いてきた。
「話したって言っても、高校生くらいに見えるって言われただけだよ」
あまりヤキモチをやかれては困る。他愛ないやりとりだとフォローした。
「私、高橋さんと全然話さないよ」
「まだ高橋さん入ったばかりだし、顔合わせることも少ないし、これからだよ!」
そう言って、湯井さんを励ました。
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