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―ピタッ
井上に渡す手が止まる
あー…
今一番聞きたくない台詞やん…
別にいつもなら所詮酔っ払いの勘違いと、聞き流すことができるだろう
でも今は違う…
心の中に広がるこの感情は明らかに怒り…
井上はいつまでもペットボトルが渡されないことに疑問を持ったのか、垂れていた顔を上げる
「…どうしたん、西…!?」
井上は僕を見るなり、細い目を大きく見開かせ驚いた
「い…しだ…?」
「…そうですよ井上さん、はい…ミネラルウォーター」
「ありがと…」
井上はペットボトルを受け取ったが口にはせず、落ち着かずに目を泳がせるばかりだった
僕と二人だと落ち着きませんか?
部屋に静寂とともに気まずい空気が流れる
この空気に耐えられず静寂を破ったのは井上さんからで
「あ…あの…ごめん」
顔は上げているが相変わらず視線は泳いだままの井上
必死に搾りだした声は酒で少し枯れていた
「…いえいえこちらこそ、西野やなくてすみませんでした」
冷たくそう言えば井上はやっと目を僕に合わせる
「!?ちっちが…」
「何が違うん?」
「!?ッ…」
何か言いたいことがあったのか、必死に言葉にしようとする井上
が、結局言葉にできずに井上は下唇を噛みしめ、黙ってしまった
無言は肯定と同じ
「それじゃ僕は帰らさせていただきますわ」
その場に居たくなくて、早く帰りたくてそう言えば、井上は驚きの声を上げる
「!?石田!?」
名前を呼ばれ、振りかえればそこには目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな顔があった
ッなんでお前が泣きそうなん…
泣きたいんはこっちなんに……
「ちゃんと着替えて寝るんやで…?」
「待って!いしッ」
―バタン
井上が何か言おうとしてた
制止する声は涙声で震えているように聞こえた…
でももうそんなことはどうでもええ…
あいつの本心がわかったから…
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